東京地方裁判所 昭和29年(行)21号 判決
原告 日本労働組合総評議会
被告 国
被告 厚生大臣
一、主 文
被告国に対する原告の請求を棄却する。
被告厚生大臣に対する原告の請求を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告国に対し原告が毎年五月一日午前十時から午後一時まで参加人員二十五万人以下で皇居外苑全域のうち立入禁止区域を除いた残部を中央メーデー挙行のため使用する権利を有することを確認する。被告厚生大臣が原告の昭和二十九年二月二十日附でなした昭和二十九年五月一日中央メーデーのための皇居外苑使用許可申請について同年三月十六日になした不許可処分を取消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として
原告は別紙目録記載の労働組合および職員組合によつて組織されている法人に非ざる社団で、議長を代表者と定めているものである。
皇居外苑は国有財産法第三条第二項第二号にいう公共用財産として国民一般の公共使用に開放された国民公園であるから、国民はその目的に副い且つそれが公共の用に供せられる態様程度に応ずる範囲内で均しくこれを使用する権利がある。ところで原告の主催により毎年五月一日に挙行される中央メーデーは労働者の祭典で労働者の団結権、表現の自由を保持するともに、労働者の団結の姿を内外に示すことを目的とする平和的民主的な行事であり、皇居外苑は立入禁止区域を除いて約二十五万人の収容能力があるからこれ以下の人員が立入ることはその保存管理に格別支障を来すものではなく、また原告は毎年一回五月一日午前十時から午後一時まで僅か三時間これを使用しようとするだけであるから、原告の右使用によつて皇居外苑に対する一般国民の利用を妨げることが仮にあるとするもその程度は殆んどいうに足りない。現に原告は終戦以来被告厚生大臣が昭和二十六年度における中央メーデー挙行のため皇居外苑を使用することを拒否するにいたるまで、毎年皇居外苑において中央メーデーを挙行し来た事実に徴するも、右に述べたことは容易に了解されるはずである。従つて原告が毎年五月一日午前十時から午後一時まで参加人員二十五万人以下で中央メーデー挙行のため皇居外苑全域のうち立入禁止区域を除いた残部を使用することは、皇居外苑の国民公園たる目的に副い且つそれが公共の用に供せられる態様程度に応ずるものであつて、原告は右の如き中央メーデー挙行のため皇居外苑の前示部分を毎年使用する当然の権利を有するものである。然るに被告国は原告のこの権利を争うから被告国に対してこれが使用権の確認を求める。
原告は昭和二十九年二月二十日附で皇居外苑の管理者たる被告厚生大臣に対し、同年五月一日午前十時より午後一時まで(但し全員退場まで閉会後二時間を要する見込であることを附加した。)参加人員約二十万人の予定で中央メーデーを挙行するため皇居外苑全域中立入禁止区域を除く残部を使用することについての許可申請を国民公園管理規則(昭和二十四年厚生省令第十九号。以下単に規則という。)第四条の規定に基いてなしたところ、被告厚生大臣は同年三月十六日不許可決定をなし該決定は同日原告に通知された。然しながら被告厚生大臣の不許可処分は違法であるからその取消を求める。と述べ、
被告等の主張に対し、
皇居外苑が被告等の主張する通り装飾公園、記念公園、休養公園たる性格目的を有するものであること、皇居外苑のうち二重橋前の部分の面積が約一万一千五百坪であり、皇居外苑のうち立入禁止区域を除いた部分の面積が約四万坪であることは認めるが、その余の事実は争う。
規則第四条は、「国民公園内において集会を催し又は示威行進を行おうとする者は厚生大臣の許可をうけなければならない。」旨規定しているが、この規定は被告厚生大臣が皇居外苑に対する管理権の範囲を超えて集会又は示威行進のために皇居外苑を使用することを被告厚生大臣の許可にかからせることによつて集会又は示威行進自体に規制を加えようとするものであつて、右使用許可は警察許可の性質を帯びるものであるが、現行法制上被告厚生大臣は警察許可について何等の権限をも有するものでないから、規則第四条の規定は、被告厚生大臣が国民公園に対する管理権に名を藉りて実質上憲法の保障する表現の自由又は団体行動権を制限するため制定したものであつて違憲且つ違法たることを免れず無効の規定である。従つて規則第四条の規定は、原告が皇居外苑について中央メーデー挙行のため当然に使用権を有するものとすることに対し些かの影響をも及ぼすものではない。
規則第四条の規定が無効であることは叙上主張する通りであつて、従つて被告厚生大臣がこの規定に基いて原告の本件使用許可申請に対してなした不許可処分もまた無効であることを免れないのであるが、現にこの処分は存在しているので、原告はこれを違法であるとして該処分の取消を請求するものである。仮に規則第四条の規定が無効でないとしても、被告厚生大臣のなした本件不許可処分には以下に述べるような違法が存するのである。
皇居外苑は前述の通り公共用財産として国民が均しくこれを利用するものであつて、従つて管理者たる被告厚生大臣は専らその維持管理の適正円滑を期する限度においてのみこれが管理をなし得る権限を有するものであるから、規則第四条の規定に基く皇居外苑の使用許可申請について許否の処分をなす場合においても、その許否は被告厚生大臣の単なる自由才量に属するものではなく、被告厚生大臣は一に管理等の適正なる行使を図る見地において当該許可申請が皇居外苑の公共の用に供せられている目的に副うものであり、且つ皇居外苑の規模施設等を勧案して使用を許可すべきものであるときには、これに許可を与えるべき法律上の拘束を受けるものであつて、もし管理権の行使を誤つて不許可の処分をなし、皇居外苑に対する国民の利用を妨げる如きことがあればその不許可処分は違法であるといわねばならない。原告が中央メーデー挙行のために皇居外苑を使用することは皇居外苑の国民公園としての目的に副うものであることは既に前述した通りであり、原告がその申請の趣旨通りに、参加人員二十五万人で昭和二十九年五月一日の午前十時から午後一時までに限つて中央メーデー挙行のため皇居外苑の立入禁止区域を除く部分を使用してもこれがために皇居外苑に対する一般国民の利用を妨げることになるとは到底考えることができないのである。而も原告が本件申請において挙示した参加人員及び使用時間はあくまで一応の予定に過ぎないものであつて、原告としてはこれ等の点については勿論その他使用の具体的条件については被告厚生大臣と事前に十分な連絡協議を遂げ適当な調整を図る用意のあることを予め被告厚生大臣に申入れてあるのである。のみならず原告は皇居外苑の使用が許可された場合、樹木、芝生、工作物等を損傷しないように前以て参加組合に徹底させると共に警備員を多数配置する外集合後における跡片づけをもさせる用意を整えているのであるから、原告の本件使用によつて皇居外苑に損傷汚損を与える等これが管理に支障を来すおそれはない。仮に多少の損傷汚損があるとしてもその程度のものを修理回復することは正に管理者たる被告厚生大臣の職責の一部というべきである。その他被告厚生大臣の主張する本件不許可処分の理由はすべてその管理権の範囲を逸脱するものであつて、結局被告厚生大臣のなした本件不許可処分は規則第四条の規定に違反し違法であるといわなければならない。と述べた(立証省略)。
被告等指定代理人は被告国に対する訴と被告厚生大臣に対する訴とは行政事件訴訟特例法第六条所定の併合要件を欠くから分離せらるべきであると述べ、本案について原告の請求を棄却するとの判決を求め、
原告の主張事実中原告がその主張のような法人に非ざる社団であること、皇居外苑が国有財産法第三条第二項第二号にいう公共用財産に属する国民公園であること、被告厚生大臣が皇居外苑の管理を所管しその管理について国民公園管理規則を制定していること、終戦以来昭和二十六年度まで原告が皇居外苑を中央メーデーのため使用して来たこと、被告厚生大臣が昭和二十六年度における中央メーデー挙行のため原告が皇居外苑を使用することを許可しなかつたこと、原告からその主張のような皇居外苑使用許可の申請がなされ(但し使用時間は午前十時から午後三時までであり、使用区域は二重橋前の部分だけである。)被告厚生大臣がこの申請に対し不許可処分をなし、原告主張の日に原告にこれを通知したことは認める。
皇居外苑は国有財産中所謂行政財産に属し、被告厚生大臣が管理しているのであるが、行政財産の管理処分については国有財産法第十八条において「行政財産はその用途又は目的を妨げない限度において使用又は収益をさせる場合を除く外これを貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、若しくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができない」旨を定め、その管理処分に一定の制限を設けているのである。この規定によつてみても行政財産を予め定められた用途又は目的を妨げない限度で使用収益させることができる権限は有するけれども、これを使用収益させる義務を負うものではない。従つて皇居外苑についても、これが使用収益をなそうとする者はその管理者である被告厚生大臣においてこれを使用収益し得るに過ぎないのである。
ところで皇居外苑は、第一に装飾公園休養公園という、公園型式のうち我が国の代表的なものであること、第二に旧江戸城の一廓であつて国家的記念物として歴史的価値があること、第三に現在もなお皇居の前庭であるという特殊の性格を有していることからして他の公園と異なり全国民は固より外国人までが深い関心と興味を持つ場所であるので、国において直接管理することにし、これを装飾公園記念公園休養公園として常にその美観、静穏をそこなわない方法で国民一般の観光鑑賞散策休息の用に供するため国民公園として公開したのである。皇居外苑を公共の用に供した目的が右に述べた通りであることは皇居外苑の造園構成からみても明らかであり、これが管理もまた右の目的に即応した方針の下に行われて来たのである。皇居外苑の用途目的が以上の通りである以上これを集会又は示威行進等のために用することはその普通一般の用法を越えるものというべく、規則第九条が右の如き使用の場合に使用料を徴収することができる旨定めていることもこのことを前提としているのである。而して規則第四条は、皇居外苑を集会又は示威行進のため使用する場合にはその使用の間皇居外苑の普通一般の使用がある程度妨げられ或は公園が普通以上の損傷を受けることが予想されることに鑑み、かくの如き特別の使用を被告厚生大臣の許可にかからしめることにしたのであつて、かくすることは皇居外苑の管理者たる被告厚生大臣の管理権の範囲内に属すること明らかであつて、規則第四条の規定は固より有効のものといわなければならない。さすれば皇居外苑を集会又は示威行進等のために特に使用しようとする者は、これが使用について被告厚生大臣の許可を得ることによつて始めてこれを使用する権利を取得するものであり、許可なくして当然に使用する権利を有するものではない。従つて原告が被告厚生大臣の許可をまつまでもなく当然に皇居外苑を中央メーデー挙行のため使用する権利を有することを前提とする原告の被告国に対する請求は失当である。
被告厚生大臣は原告の皇居外苑使用許可についての本件申請に対して不許可処分をしたのであるが、皇居外苑について特別使用を許可するかどうかは被告厚生大臣の自由裁量に属する。即ち右のような特別使用の許可処分は相手方に対して新たに権利を設定し、又は特別の地位を賦与するものであつて何等義務を課し又は権利を制限するものではないから、特にその条件を定める法令の規定が存しない以上、かかる使用を許すと否とは全く管理者たる被告厚生大臣の自由な裁量に委ねられているものといわなければならない。従つて不許可処分をしてもその理由の如何に拘らず本来違法の問題が生ずる余地は存しない。而も被告厚生大臣が本件不許可処分をなしたのは、以下に述べる通り合理的な理由によるものである。
(イ) 原告の本件許可申請の趣旨は申請書によれば昭和二十九年五月一日中央メーデー祭典挙行のため参加人員二十万人の予定で午前十時から午後三時まで皇居外苑のうち二重橋前の部分の使用許可を求めるというにある。従つて原告の右申請は規則第四条の集会のためにする皇居外苑使用許可の申請であるが、かような皇居外苑の使用方法が通常の使用の程度を超えたいわゆる特別使用に属することは明らかである。けだしメーデー祭典挙行のため使用するという特定の目的で午前十時から午後三時までの長時間二十万人という多人数が皇居外苑を使用するとすればその間一般国民の普通使用は殆んど不能となるか若しくは著しく妨げられるのみならず、後に述べるように皇居外苑自体が普通以上に損傷されることは必然であつて到底公園の普通使用の範疇に属するということはできないからである。これを詳述すれば原告の申請に係る使用区域は皇居外苑の一部である二重橋前の約一万一千五百坪の部分であつて、旧陸軍の整列方式によつて一坪の収容人員を六人とすれば収容可能人員は約六万九千人であり申請に係る参加人員約二十万人は到底収容できない。皇居外苑の立入禁止区域を除いた大部分は殆んど全部が苑路であつてその全面積は約四万坪に達するが、その苑路の広大な芝生地によつて相互に隔離されているので、苑路全部を同一の集会用の会場として使用することは事実上不可能で、統制可能な集会の会場としての使用が考えられるのは二重橋前の苑路約一万坪であり、この区域は原告申請の区域と略同じである。そして式典挙行に際しては参加人員が多数で且つ長時間に亘るため会場整理昼食休憇用便救急その他事故防止等の必要上この約一万坪の区域の隅から隅まで立錐の余地がないまでに収容することはできず、その面積の五割乃至七割程度の収容に止めるべきものである。かかる会場整理の方法から前記整列方法に従つて坪当り六人を約七千坪に収容するとすれば収容総人員は約四万人である。過去の実例においてもメーデー以外の行事における最高収容人数はこの程度以下であつた。従つて長時間多人数の集会が秩序正しく且つ事故を惹起することなく挙行されるためには到底五万人以上の収容は考えられない。強いて本件申請を許容すれば約二十万人の人員が長時間皇居外苑の大部分に充満することになり、従来の経験に徴すれば芝生、植樹その他公園施設の汚損損壊を来さないとは断言できないし、又五月の初旬は行楽のシーズンで全国各地から上京する観光客が皇居外苑に蝟集する時期であるので、その整理誘導も不可能となり且つこれ等利用者の一般利用が殆んど一日の長きに亘り阻害されることになる。被告厚生大臣は、以上の如き事情を勘案して原告の申請に許可を与えることは皇居外苑の管理自体に支障があるものと認めて不許可処分をしたのである。
(ロ) 被告厚生大臣は、規則第四条に基く皇居外苑の使用許可の方針について昭和二十七年三月十一日の閣議了解においてその許可の基準を、政治的又は宗教的目的を有せず且つ安寧秩序を乱すおそれがないと認められる集会行進その他の催物行事にしてその使用が小区域且つ短時間に限るもの及び国家的の性質をもつ集会行進その他の催物行事に限つて許可することと定めたのであるが、原告主催の中央メーデーは明らかに政治的目的を有する集会でありその使用は小区域且つ短時間でもなく、又メーデーは国家的性質をもつ行事でもないので、右許可基準に合致しないものとして原告の申請を不許可としたのである。
(ハ) 更に昭和二十九年五月一日における皇居外苑の使用については原告より先に同年二月十七日大日本愛国党から参加人員十万人をもつて午前十時より午後四時まで平和祈願愛国祭を挙行するため被告厚生大臣に対して許可申請があり、原告と競願の関係になつたのであるが、かかる二団体の集会を同一場所において同時に催すことは場所的に不可能であるのみならず、人員を制限して両名を許可すれば必然的に混乱を招くことになり、従つて両名を同時に許可することはできないし、仮にいずれか一方を許可するとすれば不許可となつた他の一方がある種の行動に出て不祥事態を惹起するおそれもあるのであるから、いずれにも使用を許可しないのが適当である。従つて被告厚生大臣は原告の本件許可申請についても大日本愛国党の前記許可申請についても共に不許可処分をしたのである。
叙上の通り被告厚生大臣の原告に対する本件不許可処分はこれを違法であるとすべき何等の事由も存しないものであつて、原告の被告厚生大臣に対する請求は失当である。
と述べた(立証省略)。
三、理 由
原告の被告国に対する使用権確認の訴を被告厚生大臣に対する行政処分取消の訴と併合の要件を具備しているかどうかについて考えるに、行政事件訴訟特例法は、相互に関連性を有する行政事件訴訟について審理の重複裁判の矛盾牴触を避けて紛争を一挙に解決すると共に訴の併合を無制限に許すことによつて生ずべき事件の解決の遅延を避けるため、第六条第一項において所謂抗告訴訟には、その請求と関連する原状回復、損害賠償その他の請求等所謂関連請求に係る訴のみを併合し得る旨規定しているのである。これを事件について考えるに、被告国に対する使用権確認の訴は、規則第四条の規定が無効であることを前提として原告は中央メーデー挙行のため皇居外苑について当然使用権を有することを主張するに対して、被告厚生大臣に対する不許可処分取消の訴は、先ず第一に規則第四条が無効であること、第二に規則第四条が仮に有効であるとしても、右不許可処分自体に瑕疵が存するとして被告厚生大臣の本件不許可処分は違法であり、これにより原告の皇居外苑に対する使用権が侵害されたことを主張するものであつて、両訴はその請求原因の主要部分において互に共通性を有するものであつて、正に行政事件訴訟特例法第六条第一項の規定にいう関連事件と認めるべきものであり、これを併合して審理裁判することは右規定の所期する目的に副うものといわなければならない。従つて原告が被告国に対する訴と被告厚生大臣に対する訴を併合したことは適法である。
そこで本案について判断を進めることとする。
原告が別紙目録記載の労働組合および職員組合によつて組織せられる法人に非ざる社団であつて議長を代表者としているものであること、皇居外苑が国有財産法第三条第二項第二号にいう公共用財産に属し国が直接公共の用に供している国民公園であること、被告厚生大臣がその管理を所管し、これが管理について規則を制定していることは当事者間に争がない。成立に争のない乙第四号証の二、証人田村剛、同森本潔の証言を綜合すれば、皇居外苑は旧幕時代における江戸城の一廓であつて、明治維新に至り皇居が江戸城跡に置かれたという沿革を有するものであるところ、終戦後皇居外苑は国有財産に移られ、昭和二十二年十二月二十七日の閣議決定をもつて国民の休息鑑賞保健教育等国民の福祉のため国が直接管理し広く一般国民の用に供する方計を定め差当り国民的利用に開放するという意味において屋外ステージ、運動場等を設けることにしたが、その後旧皇室苑地運営審議会において皇居外苑のもつ前記の如き由緒ある沿革及び皇居の前庭たる性格に徴し、且つ国民は固より広く外国人の関心興味の的である点にも鑑み、努めてその原状を回復保存し、広く一般の利用に供せしめるため、皇居外苑の記念公園装飾公園及び休養公園としての本質を尊重しその整備保存をはかり、これを関連のない施設等は設けず右の本質性格に応じて国民広場として公開すべきであることを政府に対し答申し、爾来国民の鑑賞、散策、休養等のための公園としてその利用に供されていること、以上の如き性格の外皇居外苑特に二重橋前の玉砂利敷の部分は集合用等の広場に充てられるべき性質をも併せ有していることを認めることができる。尤も証人田村剛は、外苑のうち二重橋前の部分は皇居に出入するための玄関先通路たるべきものであつて、集会のための広場たる性質をもつものではないと供述しているが、この証言は造園学者たる同証人の意見たる性格を多分にもつものであることは、その証言の全体を通じて窺い得られないばかりでなく、従来この部分においては屡々種々の集会行事が行われて来たことは弁論の全趣旨に徴して明らかなところであり、現に規則第四条が「国民公園において集会を催し又は示威行進を行おうとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない」ものと定め、皇居外苑についてもこれを集会等のため許可を受けて使用する場合に関して何等の地域的制限を受けていないことに照しても、皇居外苑殊に二重橋前の部分が集会用等のための広場たる性格をもつものであることは到底否定し得ないところである。
そこで先ず原告の被告国に対する請求について判断する。前記のように被告厚生大臣は皇居外苑について管理権を有し、この管理権に基いて規則を制定し、その定めるところに従つて皇居外苑を管理していることは当事者間に争のない事実であるところ、証人森本潔の証言によると、規則第四条において皇居外苑を集会又は示威行進のために使用することを被告厚生大臣の許可にかからせるものとした趣旨は、皇居外苑の有する景観自体が国家的に保存せられるべき価値を有するものであり、且つ又それが広く全国的利用の対象となり得べきものであることに鑑みて国民公園に定められたことからして皇居外苑は本来主としてこれを観賞し、ここにおいて散策休養等をするために使用すべき使命性格を有するものであるとし、かくの如き本来の普通一般の使用については国民の自由に委ねることとすべきも、右のような使用の程度を超えてここにおいて集会を催し又は示威行進を行おうとする場合にはその使用は特別のものであり、普通一般の使用に対してある程度支障を及ぼすおそれもあり、その他これが管理上これを放任することは、皇居外苑の本来の目的に副わないものであるとの見地に立つて、かくの如き特別の使用をなさんとする者は、被告厚生大臣の許可を受けることを要するものとしたことが認められるので、規則第四条の規定が国民公園を集会又は示威行進のために使用し得ることの条件として被告厚生大臣の許可を要することに定めたのは、正しく被告厚生大臣の有する管理権に由来するものと解すべきである。原告は規則第四条に定める許可は警察許可たる性質を帯びるものであり、かくの如き性質の許可を受けるべきことを皇居外苑の使用条件と定めることは被告厚生大臣の権限を逸脱するものであつて規則第四条の規定は無効であると主張するのであるが、既に前述したところに徴して明らかな通り右許可は専ら被告厚生大臣がその管理権の行使の適正円滑を期するための目的以上に出るものでなく、決して集会又は団体行動等の自由そのものを制限し又は禁止しようとするものでないから、到底これをもつて警察許可たるものということはできないのである。もし被告厚生大臣において右許可の権限を濫用して前示の如き自由自体に規則を加える如きことがあれば当該処分そのものについて違法の問題が生ずべきことは勿論であるけれども、このことは規則第四条の規定の効力とは自ら別個に論ぜられるべき事柄である。さすれば皇居外苑を集会又は示威行進のために使用し得るには、規則第四条の規定によつて被告厚生大臣の許可を受けることが必要とされるものというべく、この許可をまつまでもなく当然皇居外苑の使用権を有することを前提とする被告国に対する原告の請求は既にこの点において(許可を受けて皇居外苑を使用し得るに至つた場合に使用者に果して使用権が設定されるか否かについてはなお論ずべき問題が存するが、この点は暫らく措くとして)失当であるからこれを棄却すべきものとする。
次に原告の被告厚生大臣に対する請求について判断する。
原告が昭和二十九年二月二十日附で被告厚生大臣に対し規則第四条の規定に基いて中央メーデー祭典挙行のため同年五月一日午前十時より午後一時まで(但し閉会後全員退場まで約二時間を要する見込)参加人員二十万人で皇居外苑(但し使用区域の点を除く。)を使用することについて許可の申請をなしたのに対して被告厚生大臣が同年三月十六日不許可決定をなし該決定が同日原告に通知されたことは当事者間に争いがなく、証人柳本美雄の証言に前記の如く原告の右申請に係る中央メーデー参加人員が二十万人とされていることを併せ考えれば、原告の申請した使用区域は皇居外苑のうち立入禁止区域を除く全部に亘るものと認められる尤も原告が被告厚生大臣に提出した申請書の添附図面には皇居外苑のうち二重橋前の部分を使用申請区域として表示していることが弁論の全趣旨によつて認められるが、証人柳本美雄の証言及び弁論の全趣旨を綜合すると右図面に表示された区域は使用範囲の中枢部分を示したものに過ぎず、申請は皇居外苑の中立入禁止区域を除く残部につきなされたことが認められ、この認定を覆す証拠はない。
さて既に上述したところにより明らかなように皇居外苑は二重橋前の玉砂利敷の部分をも含めて一体として旧皇室苑地という由緒を現在もなお皇居の前庭であるという特殊性をもつところの装飾公園たると共に休養公園、記念公園たる性格を有すると共に集会等のために使用されるべき広場たる性質を併せもつものであり、ただ規則第四条の規定により皇居外苑を集会等の目的に使用する場合には、被告厚生大臣の許可を受けることが必要とされるに過ぎないのである。原告は、規則第四条の規定は無効であると主張するのであるが、その主張の採用し得ないものであることは、先に判示した通りである。従つて被告厚生大臣のなした本件不許可処分が違法とされるか否かは、その処分自体についてこれを違法ならしめる瑕疵が存するか否かによつて決せられるべきものである。被告厚生大臣は、規則第四条に基く許否の決定について被告厚生大臣は自由裁量権を有し、従つてこの裁量権に基いて不許可の処分をなした以上、その処分についてはこれが適否を論ずる余地はないと主張するのであるが、抑々行政庁が行政処分の権限を有することは、その反面において同時にその権限を適正に行使すべき義務を負うことを伴うものであつて、行政処分について行政庁が自由裁量権を有するものとされる場合においても、その自由裁量は絶対無制限のものとはいい得ないのであつて、所謂覊束裁量の場合におけると本質的な相違が存するものではなく、要は裁量の許される範囲について板挾の差異が認められるに過ぎないのである。従つて行政庁が具体的な事例において苟もその裁量の範囲を越えて行政処分をなした場合には、仮にそれが自由裁量に属するものであつても、その処分を違法であるとすることは毫も妨げられるものではないのである。してみれば被告厚生大臣のなした本件不許可処分が違法であるか否かを決する鍵は、右処分が被告厚生大臣の皇居外苑に対する管理権の適法な行使に基くものであるか否かに存するものといわなければならない。而して被告厚生大臣の皇居外苑に対する管理権の内容範囲は、皇居外苑の性格が上述したところにより知り得る通り一般国民の利用に供せられるべき公園乃至は広場たることにあるところからみて、これをその性質に適した方法において広くこれを一般国民の利用に供し、その利用の調整を図り、その利用に便ならしめるようにこれを維持整備すべき点に求められるべきものである。従つて被告厚生大臣が皇居外苑を集会等のために使用しようとする者の使用許可申請についてその許否を決定する場合においても、専ら右の如き管理者の内容目的に鑑み、且つその範囲内においてのみ許否の処分をなさなければならないのである。
そこで以下被告厚生大臣が本件不許可処分の理由として挙示するところについて検討を加えることとする。
被告厚生大臣は先ず第一に、原告の本件申請に対して許可を与えることは管理に支障を来す旨主張(この点に関する被告厚生大臣の(イ)の主張)する。然しながら皇居外苑のうち立入禁止区域を除いた残りの面積が約四万坪であることは当事者間に争がないのであるが被告厚生大臣の主張する坪当り六人の基準によりこれに多少の余裕を見込んでも原告の申請に係る二十万人の人員は優にここに収容できるのであり、而も右二十万人という人員もあくまで予定人員であつて現実に中央メーデーに参加する人員はこの予定人員より少くなつても多くなることのないこと及び予定人員自体もそれは一応のものであり原告は被告厚生大臣との折衝によりこれを縮減する用意もあることは証人柳本美雄の証言に徴して明らかであり、また右証言によれば、原告は中央メーデーに参加すべき所属組合に立入禁止区域に立入る如きことのないようその他公園の植樹施設等を汚損、破壊する等のことのないよう十分に注意を徹底させていることが認められ、仮に中央メーデー挙行のため皇居外苑を使用することによつてなお幾何かの損傷毀損が避け難いものとしても、それは皇居外苑が国民公園として公共の用に供されているその本来の性格目的からいつて管理権者においてこれを収容すべきは当然であり、更にまた一般公衆の利用がメーデーの挙行中仮に妨げられることがあるとしても、そのこと自体もまた皇居外苑において集会等を催すことが被告厚生大臣の許可にかからしめられるとはいえ、その性格目的に副うものであるとして認められている以上、皇居外苑の使用を許可しない理由とすることはできない。
次に被告厚生大臣は本件申請が規則第四条の許可について被告が定めた基準に合致しないと主張(この点に関する被告厚生大臣の(ロ)の主張)する。被告厚生大臣が昭和二十七年三月十一日閣議了解を経て皇居外苑の使用許可についてその主張するような基準を定めたことは、証人森本潔の証言及び同証言によりその原本の存在と成立の真正を認めることができる乙第一号証の二によりこれを認めることができるが、かくの如き基準を定めたことによつては、皇居外苑の前述のような性格と本質に由来して認められるべき被告厚生大臣のこれに対する管理権の内容に変更をもたらすことはできないものというべく、従つて右のような許可の基準の定立は被告厚生大臣の管理権の範囲を逸脱するものであつて、この基準に合致しないことを理由として本件不許可処分は違法でないとすることはできない。
(ハ)最後の被告厚生大臣は昭和二十九年五月一日の皇居外苑の使用について競願があつたことを不許可処分の理由として主張(この点に関する被告厚生大臣の(ハ)の主張)する。
証人森本潔の証言及び同証言によりその原本の存在と成立の真正を認め得る乙第二号証の一によれば、大日本愛国党から平和祈願愛国祭挙行のため参加人員約十万人の予定で昭和二十九年五月一日午前十時より午後四時まで皇居外苑の使用許可の申請がなされたこと、もし原告にのみ許可を与える場合(両者に許可を与えることができないことは容易に看取し得るところである。)には大日本愛国党において原告の使用に対し何等か妨害的行動に出て治安上好ましくない事態が発生するおそれが予測されないでもなかつたことが認められるが、皇居外苑に対する使用許可についての申請が競合してなされた場合においては、被告厚生大臣としてはそのうちいずれの申請が皇居外苑の性格本質により良く副うものであるかを勘案して事を決すべきであつて、単に競願の存することのみによつていずれに対しても不許可の処分をなすことは許されないものというべく、もし一方にのみ許可を与え又は双方に許可を与えることによつて治安上有害な事態の発生が予想される場合には、治安行政を所管する行政庁においてその防止に適宜に手段方法を講ずることも可能な訳であり、被告厚生大臣としては使用申請の許否を決するについては既に屡々言及するところがあつた通り、専らその管理権者の立場においてのみ適宜の配慮を廻らすべきものであり、叙上の如き治安上の事由に基いて不許可の処分をなすことはその権限に属しないことを行おうとするものであり到底これを適法視することはできないのである。
以上説示して来た通り被告厚生大臣が本件不許可処分の理由として主張するところはいずれも失当であるばかりでなく、これ等の理由を彼此綜合して考察してみても被告厚生大臣の本件不許可処分を適法であるとする判断には到達し難く、結局被告厚生大臣の右処分は違法であると断定しなければならないのである。
然しながら行政処分の違法を理由にこれが取消を訴求し得るためには、法律に特別の定がある場合を除いて一般にその取り消さるべき処分によつて原告の権利又は法律上の利益が侵害され、当該処分の取消によつてこのような権利又は法律上の利益が救済される場合であることを要すべきものであるところ、元来公物をその本来の用途目的に従つて利用することは、公物が行政目的の達成のために公共の用に供せられることから反射的に生ずる事実上の利益たるに過ぎないものであつて、これを目して権利又は法律による保護に値する利益となし得ないことは、公物の本質から導き出される当然の結論であるといわなければならないのであつて、現に国有財産法がその第十八条において行政財産に対し私権を設定することを禁止しているところからもその一端を窺い知ることができるのである。そしてこの理は、公物が一般公衆の無条件自由な利用に供されている場合であると、これが利用に一定の条件が附せられている場合であるとにより、その適用を二、三にするものではないのである。従つて皇居外苑についても、その使用について被告厚生大臣の許可が与えられたとしても、その許可を受けた者はこれが使用について単に反射的な利益を享受し得るに止まり、その使用について権利は固より法律上の利益をも取毀するに至るものではないといわなければならない。してみれば、原告は本件不許可処分によつて皇居外苑について如何なる意味においても権利又は法律上の利益を侵害されるということはあり得ないことに属するのみならず、本件不許可処分は原告の中央メーデー挙行という集会そのものを対象とするものでないことは上来説示したところに徴して明らかであるから、憲法第二十一条及び第二十八条の保障する集会の自由及び団体行動権を侵害するものともなし難いのである。
叙上の如く本件不許可処分の違法であることが原告の権利又は法律上の利益に対する侵害を伴わないものである限り、原告の被告厚生大臣に対する請求はこれをなすにつき法律上の利益に欠けるものというべく却下されるべきものである。
よつて原告の被告国に対する請求を棄却し被告厚生大臣に対する請求を却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 桑原正憲 鉅鹿義明 鈴木重信)
(別紙目録省略)